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第4話 怪奇レポート002.鳴き声だけの猫を飼う・壱

last update Date de publication: 2026-07-22 21:30:00

「四月一日。本日より新年度です!

 私、香塚こうづか妙たえは念願叶ってキッカイ町立図書館、伏木ふしぎ分室で勤務することになりました!!」

 出勤前、鏡の中の自分に向けて笑顔で唱えてみた。

 けれど、それは事実と異なっている。

 昨日見学した通り、実際は「怪奇現象対策課」という不思議な組織で、メインとなる業務はキッカイ町の中で起こる怪奇現象への対策を練ることらしい。

 急にそんなことを言われたって私に生まれ持った霊感みたいなものはないし、なんなら昨日の空に浮かぶ目玉が人生初怪異だった。

 そんな私に対して、伏木分室の館長である小津骨おつほねさんは一年頑張ったらきちんとした図書館で働くことができるように手配することを提案してくれた。

 その餌に釣られて「はい」と答えてしまった私だけれど、目玉の怪異を見てからその決心は揺らいでいた。

 私たちに課された使命はよくわからない怪異を相手に対策を考えること。

 ということはただ観測するだけじゃなくて時には立ち向かって対決しなきゃいけないっていうことだよね?

 あんなモノたちを一年も相手にし続けていたら精神を病んでしまいそうな気がするんだけど……。

「香塚先輩おはようございます」

 今にも崩れそうな公民館の入り口で葛藤に揺れていると、後ろから声を掛けられた。

 振り向いて目が合ったのは、白いフリルのついたワンピースを着た小柄な女の子。

 同じ伏木分室に勤める結城ゆうきちゃんだ。

「おはようございます」

 挨拶を返しながら、何事もなかったように伏木分室の中へ入った。

 少し埃っぽいような空気の臭いは図書館となんら遜色ない。

 なのに、この空間には本も利用者も存在しない。

 あるのはこの町で起こった怪奇現象の報告書とそれを分析した怪奇レポートだけらしい。

「昨日の、すごかったですね」

 結城ちゃんが噛みしめるように言う。

 そうだ。そうだよね。

 あんなモノ見ちゃったら怖くなるのはみんな一緒なんだよね。

 私だけ被害者みたいな気持ちでいたけど、結城ちゃんだってきっと……――。

「私、ああいうの見るの初めてで……」

「香塚先輩! あれが初だったんですか!?」

 結城ちゃんは食い気味に私の言葉を遮った。

 なぜだろう。

 その声色に羨望のようなものを感じる。

「ワタシ、小さい頃からいろいろと見てきたんですけど。あのレベルのモノはそうそうお目に掛かれないですよ!」

 あー。この子、霊感とかあるタイプの子か。

 興奮ぎみの結城ちゃんを見たら、彼女がここに配属された理由がなんとなく理解できた。

 私が引いていることにも気付かず熱弁を振るおうとした結城ちゃんを制止するように、爆音で始業のチャイムが鳴る。

 チャイムの音が大きすぎて建物全体が揺れているような気がするけれど、まさかこの音が原因で倒壊したりしないよね?

 不安に駆られる私をよそに、朝のミーティングが始まった。

「今日は香塚さんの初日だし、ここの仕事について改めて軽くおさらいしましょうか。

 ここ、キッカイ町では他の町と比べて多くの怪奇現象が発生しています。その数、年間百万件以上。

 キッカイ町の人口がおよそ一万とされていますから、平均するとすべての町民が三日に一度のペースで怪異に遭遇している計算になります。これは異常です。

 我々怪奇現象対策課の使命はこれらの怪異の発生原因を探ること。そして怪奇現象の発生を食い止めることとなります」

 小津骨さんの説明を聞いて、私は驚いた。

 キッカイ町に住み始めてもう三年になるけれど、怪異らしい怪異は昨日出会ったのが最初だったから。

 結城ちゃんはしょっちゅう見ていたみたいだから、同じかそれ以上に霊感の強い人なら日にいくつもの怪異に出会っていてもおかしくないのだろう。

 それに、それだけ数が多いなら何かしらの対策を講じなければいけないという話もうなずける。

 肝心の対策については小津骨さんも結城ちゃんも素人なので、外部から怪異の専門家のような人を招いて教えてもらうことになるらしい。

 その人に会って指導を受けるまでは過去の報告事例をまとめる時間になる。

 年間百万件の怪奇現象が起こるというだけあって、報告書の束が詰まったダンボール箱は公民館の入り口と化粧室以外のすべての場所を埋め尽くすように積み重なっている。

 これは途方もない作業量になりそうだ。

「ここまでで何か質問はある?」

「はい!」

 私は手を挙げてアピールする。

「香塚さん?」

「なんでここが図書館の分室扱いなんですか?」

 昨日家に帰ってから今この瞬間に至るまでに考えた中での一番の疑問がそれだった。

 人事部長が意地悪な人だから、図書館だと偽って私のような人を送り込もうとしたのだろうか。

 なんて考えもしたが、それでは入り口に伏木分室の看板を掲げる必要はないのだ。

 看板を掲げるからには何かもっともらしい理由があるのだろう。

「ああ、それね。アイツ……じゃなくて桂田かつらだ部長が言うにはここにある怪異報告書が郷土資料という扱いになるかららしいの」

 説明する小津骨さん自身も納得がいっていない様子だ。

 要はこの建物そのものが特設の郷土資料室ということなのだろうけれど、だとしたらもっとまともな建物を用意してほしかった。

 春の暖かな日差しが差し込んでこの寒さだ。

 真冬になったら凍えてしまって仕事どころではないかもしれない。

 それにチャイムも壊れて爆音でしか鳴らなくなっているらしいし。

 このままじゃ耳が壊れてしまう。

 それはみんなも同意見らしく、近いうちに工事が入るという。

 そういえば昨日はあんなに元気だった真藤しんどうくんがやけに静かだ。

 居眠りでもしているのかな? と横目で様子を窺うと、彼は真剣な顔でワタシの足元の床を見つめていた。

「真藤くん……?」

「っと、はいっス!」

「めっちゃ床を見てたけど何かあったの?」

「猫の鳴き声っぽいのが聞こえるんスよ」

 真藤くんの言葉を聞いて、小津骨さんや結城ちゃんもこちらへ集まってきた。

「ほんとだ。聞こえる」

「床下かしらね」

 みんなが真面目な顔をして相談し合っている中、私の耳に届いたのは聞き覚えのある「みぃ」という鳴き声だった。

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  • こちら、キッカイ町立図書館フシギ分室・怪奇現象対策課! ~キッカイ町の奇怪な事件簿〜   第29話 怪奇レポート007.本を開くたびずれる栞・肆

    「……っていうことで、この本を近くに置いて寝ると夢の図書館に行けるみたいなんですけど、栞がずれるっていうのが結び付かなくて。小津骨さん、どう思います?」「どう、って言われると難しいわね。その『夢の図書館』っていうのがみんな共通して同じように見えるのかもわからないし、まして香塚さんはメガネをしてない状態で行ったんでしょう? それなら正しい姿が見えていない可能性もあるわ」 小津骨さんの言う通りだ。 瀬田さんからメガネをもらったのはいいけれど、メガネをかける習慣がないと忘れちゃうんだよね……。「香塚先輩、もしよかったらその本貸してくれませんか?」 結城ちゃんはこの本に興味を持ったようで、革張りの表紙を撫でてみたりページをパラパラとめくったりしている。「結城ちゃんなら霊感も強いみたいだし、お願いできるかな?」「そうね。危険を感じたらすぐに関わるのをやめてもらって、瀬田さんか誰かに相談するようにしましょう」「えぇ……、絶対なんかあるっスよ。やめた方がいいっス」 ビビリの真藤くんは一人苦い顔だ。「何かあるんだったら私がどうにかなってるはずだし、そんなに怖がることないと思うんだよね」「何ともないのはこーづかさんが鈍感だからっス」 ナチュラルに失礼なことを言った真藤くんを小突いてその日は終わった。 翌朝、結城ちゃんは満面の笑みで出社してきた。「行けましたよ~。夢の図書館!」「どうだった?」「聞いてた通り、大きなお屋敷いっぱいに本があって、男の子と女の子が応対してくれました」 二人の容姿も、自分の夢の本を手渡されたのも同じ。 ここまで共通項が多いとただの夢とは思えない。「夢の本を持って帰ってきたら本が上書きされるって聞いたから試しに持ってきてみたんですけど、本当ですね」 本をめくりながら嬉しそうに結城ちゃんが笑う。 自分の夢の中身が書いてある本を持ってくるなんて、結城ちゃん

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  • こちら、キッカイ町立図書館フシギ分室・怪奇現象対策課! ~キッカイ町の奇怪な事件簿〜   第27話 怪奇レポート007.本を開くたびずれる栞・弐

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  • こちら、キッカイ町立図書館フシギ分室・怪奇現象対策課! ~キッカイ町の奇怪な事件簿〜   第25話 相乗りしたのは……

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  • こちら、キッカイ町立図書館フシギ分室・怪奇現象対策課! ~キッカイ町の奇怪な事件簿〜   第24話 瀬田さんの通信簿

    「お、おはようございます……」 週が明け、右手をギプスで固定された私は赤面しながら伏木分室に入った。 人生初の除霊で人生初の骨折をし、人生初の入院と手術を終えた。 ケガをしたのが利き手だからしばらくは不自由な生活になるけれど、こればっかりは自業自得だから仕方がない。「うわぁ……思ったより酷いことになってますね」 私の手を見てぎゅっと顔を歪める結城ちゃん。 その横でワクワク顔の真藤くんが油性ペンを握りしめているのはなぜだろう?「香塚さん、おはよう。 みんな揃ったし、瀬田さんから届いた手紙を見ましょうか」 そう言って小津骨さんが持ってきたのは、厚さ三センチはありそうなA4サイズの分厚い封筒だった。 表面には大きな赤い文字で「重要書類在中」と書き付けられている。 瀬田さんの筆跡なのだろうか。 とても綺麗な字だ。 大きな封筒の中には私たち一人一人の名前が書かれた茶封筒と、数種類のお札が入っているクリアファイル、あとは表紙にでかでかと「機密文書」と書かれた冊子が一冊入っていた。「これは……瀬田さん独自の怪異対処マニュアルね」 いかにも仰々しい雰囲気の機密文書をパラパラと流し読みしていた小津骨さんが呟く。 これが外部に流出することは絶対に許されないので、小津骨さんがきっちりと管理してくれるようだ。 次に、私たちはそれぞれ自分の名前が書かれた封筒を受け取って中身を確認することになった。 中に入っていたのは二枚の紙。 香塚妙様 視認・D 接触・B 対話・E 除霊・SSS 総合・B+ 一枚目に書かれていたのはそれだけ。 もう一枚はA4サイズの紙に細かい文字でぎっちりと書き込まれている。

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